越前漆器の魅力とその歴史:福井の伝統工芸を守り伝える
福井県には、7つの国指定の伝統的工芸品があります。
今回は、その中の一つである越前漆器の魅力を紹介します。
福井県鯖江市といえばメガネの産地としても有名ですが、実は越前漆器も伝統工芸の中で最も古い歴史を持つ漆器です。
この記事でわかること
・越前漆器の魅力
・越前漆器の歴史
・越前漆器のこれから

越前漆器は日本の伝統工芸の中でも1番古い歴史があります。
クリックできる目次
越前漆器の歴史

越前漆器の起源は約1500年前にさかのぼります。古墳時代末期の6世紀、第26代継体天皇がまだ皇子のころ、壊れた冠を修理するために片山集落(現在の福井県鯖江市片山町)の塗師に命じました。
その塗師が漆を使って冠を修理し、黒塗りの椀を献上すると、皇子はその見事な技術に感動し、片山集落で漆器づくりを奨励したと伝えられています。これが、越前漆器の始まりと言われています。
越前漆器の起こりは、約1500年の昔にさかのぼるといわれています。

皇子が感動するくらい福井の職人は技術を持っていたんだね
越前漆器の特徴と優れた技法

越前漆器の製造には高度な技法が用いられ、職人の手作業によって美しい仕上がりが実現されます。
【製作工程】
①生地製作
②塗り工程
③加飾工程
生地製作:漆を塗る前に、木材を削り、表面を滑らかに整える工程です。これにより耐久性が向上し、漆が均一に塗布される土台が作られます。
塗り工程(塗り重ね):何層にもわたって漆を塗り重ねることで、深い光沢と美しさを実現します。この工程では、乾燥と研磨を繰り返しながら、職人の手作業で仕上げられます。
加飾工程:最後に、表面を磨き上げることで、なめらかな手触りと上品な輝きを持つ漆器が完成します。
越前漆器に使用される高品質な素材
越前漆器の品質を支えるのは、厳選された素材です。
【使用される素材】
- 漆(うるし): 天然樹脂であり、美しい光沢と耐久性を持つ。
- 木材: 主にケヤキやサクラなどを使用。木目が美しく、軽量で強度も高い。
- 装飾技術: 金箔や銀箔、蒔絵や沈金などの装飾が施され、芸術的価値が高められています。
【見えない素材】
— RENEW/2024 (@renew_fukui) May 10, 2021
漆器久太郎さんのお店で見つけた越前漆器の素地。
木の粉と樹脂を混ぜて射出成形して作られています。
本来は見えなくなるのですが、この素朴な質感と持った時の軽さが新鮮でした。#renew_fukui pic.twitter.com/rygDvtbXEo

漆とは?越前漆器にも使われている漆について解説します
越前漆器の漆かき職人の役割
漆は漆器には必ずと言っていいほど必要な素材です。漆は接着剤、防水、装飾などさまざまな役割を持っており漆器製作の重要なポイントです。
漆の木の樹液を漆といいますが、樹液は大量に採取できないため近年は中国輸入が主になっています。
漆掻きは初辺(はつへん)の後半戦に入っています。
— ㈱小西美術工藝社【漆生産部門】 (@konishi_ninohe) July 12, 2024
漆は時期ごとに性質が変化しますが、梅雨明けからの盛辺(さかりへん)に近い粘度になってきました。
次第に辺(掻き傷)を伸ばして採取量を増やしていきます。#漆 #漆掻き #伝統技術 pic.twitter.com/jZBKVpa9Tv
越前(いまの福井県丹南地区)には、古くから多くの漆かき職人がいました。漆かきとは、漆の木に傷をつけて漆液を採集する技術を持つ職人のことです。
越前の漆かきは、全国的に高く評価され、最盛期には全国の漆かきの半数を占めていたと言われています。日光東照宮の建設時には、徳川幕府が越前に大量の漆液を採集するよう命じたという記録も残っています。

こうした漆かきの技術は、越前漆器の産地形成に大きな影響を与えました。全国から漆を集めるついでに越前打刃物や越前漆器を売り歩いたとも伝えられています。
越前打刃物と越前漆器は漆かき職人によって全国で販売されました。

今では職人が全国で数人となり90%以上中国から輸入に頼っています
越前漆器に使われる福井の漆
「うるし」という言葉には、「潤夜」や「潤美」といった字があてられていたことがあると言われています。この言葉からも、漆が暮らしに深く結びついていたことが分かります。
私たちの先祖が漆を愛し、漆と共に暮らしてきた思いが、そのまま言葉となったのでしょう。こうした漆への愛が形となり、色となり、得も言われぬ光沢となって現れるのが、今日の越前漆器の魅力です。
その美しさは、表面の華やかさを超えた奥深い美しさを感じさせます。福井の伝統工芸として、越前は漆が生活の一部となって息づいている土地です。
優しく温かい漆器を生み出すこの土地で、越前漆器は育まれてきました。

天然漆が入手しにくくなり化学塗料を使った漆器もだいぶ増えました。
越前漆器のデザインと現代的アレンジ
最近では伝統的な「花鳥風月」をモチーフにしたデザインから、モダンなデザインまで幅広く展開されています。
- クラシックデザイン: 植物や動物、風景など日本の伝統的な美を表現。
- モダンデザイン: シンプルでミニマルな形状、北欧デザインとの融合など、新しい感覚の漆器も人気。
- コラボレーション: 有名デザイナーや海外ブランドと提携し、国際的な評価を受ける作品も増加中。
市松模様のカードケースも開発しています。

越前漆器と鯖江の技術の融合

近年、越前漆器と鯖江のメガネの技術が融合し、新たな商品が生まれています。例えば、越前漆器のお箸の先端に鯖江のメガネの材料が使われるようになりました。
これは、福井の伝統的な技術と現代的な技術を組み合わせることで、世に残る新しい商品を作り出す試みです。
越前漆器の実用性と芸術性
越前漆器は「美しいだけでなく、実用性も高い」のが特徴です。
軽量で丈夫
越前漆器は、非常に軽量でありながら、耐久性に優れています。日常使いの食器としても最適です。
抗菌作用
漆には天然の抗菌作用があり、食品の保存にも適しています。そのため、昔から弁当箱などにも活用されてきました。
環境に優しい
天然素材を使用しているため、環境に優しく、持続可能な工芸品としても注目されています。
越前漆器の現代への適応
伝統を受け継ぎ、進化を続ける 福井県「越前漆器」の新たな歩み
— 家庭画報編集部 (@KATEIGAHO) January 1, 2022
現代の食卓に合うモダンな漆器。食洗機にかけられるものも!#越前漆器 #福井県 #食器 https://t.co/JH3Seu7KB3 pic.twitter.com/rfODexsCwK
近年では、以下のような新しい試みが行われています。
- 合成樹脂を使った手頃な価格の製品: 若い世代や海外市場向けのアイテムが増加。
- 新しいカラー展開: 伝統的な赤・黒だけでなく、青や緑、白などモダンな色も人気。
- 電子レンジ対応の漆器: 現代の生活に適した機能を持つ製品も開発されています。
私が幼少の頃に感じた漆器の存在

私が幼少の頃、すでにプラスチックの安価な食器が広く出回っていました。私の家でも、正月になると親が「これは結納品として使われた高価な重箱だ」と言って、おせち料理を入れていたのを覚えています。
しかし、その当時は高価な漆器と安価なプラスチック食器の違いがよく分からず、特別な感覚を抱くことはありませんでした。
今でも高価な食器を使う機会が少ないため、その価値や機能を実感することはあまりないのですが、伝統工芸品が廃れていくのを見ると、やはり寂しさを感じます。

時代に合わせたモノづくりが必要です
越前漆器の伝統技術の新たな応用
越前漆器の技術は、現代の生活に合わせた商品にも応用されています。伝統技術を使って作られたタンブラーや水筒などが、ふるさと納税の返礼品としても提供されています。
これらの製品は、漆器の美しさと現代の使いやすさを兼ね備えた商品として、多くの方に支持されています。
以下のリンクから詳細をご覧ください。

こちらのタンブラーや水筒は品切れになるくらい人気商品となりました
福井の伝統工芸を未来へ繋ぐ「福井7人の工芸サムライ」

私は、鯖江のものづくりの経験を活かして、福井県にある7つの国指定伝統工芸品を守り伝えるため、若手職人グループ「福井7人の工芸サムライ」を立ち上げました。
このグループでは、伝統工芸を未来に伝えるための新しい試みや、若手職人たちの技術の向上を目指しています。福井には、越前漆器のほかにも若狭メノウ細工といった素晴らしい伝統工芸品があります。
私たちは、それぞれの技術を守りながら、新しい市場や商品を開発していくことが重要だと考えています。こうした取り組みを通じて、福井の伝統工芸を次世代に伝えていくことを目指しています。
越前漆器を楽しむ観光体験
福井県では、越前漆器に関する体験型観光も充実しています。
- 漆器工房の見学: 実際に職人の作業を見学し、漆塗りの技法を学ぶことができます。
- 漆塗り体験: 自分だけのオリジナル漆器を作ることができるワークショップも開催。
- 直売所での購入: 工房や専門店で、高品質な越前漆器を手に入れることができます。
うるしの里会館にて越前漆器の絵付け体験してきました🌸
— 【さくらいと】神楽ひより (@hiyori___sakura) November 21, 2024
やっぱり綺麗に線をひくことがまず難しい……!!
今日はちょうちょ柄にチャレンジしたよ🦋♡
最後に沈金刀で削る体験もさせていただけて感激🥹🥹🥹
ありがとうございました🫶🏻
#さくらいと #越前漆器 #うるしの里会館 pic.twitter.com/nC5ccD6Kbe
越前漆器の使いやすさの秘密

越前漆器は日常使いにこそ最適な、優れた機能性とデザイン性を兼ね備えています。
越前漆器が日常使いに最適な理由
- 軽くて丈夫
越前漆器は、主に木を素材としているため、非常に軽量です。毎日の食事で使う食器だからこそ、軽さは大きなメリット。また、木製であるため割れにくく、丈夫さも兼ね備えています。小さなお子さんや力の弱い方でも、安心して使うことができます。
- 優れた断熱性
漆器は、陶器や金属製の食器に比べて断熱性に優れています。そのため、温かい料理を入れても冷めにくく、ゆっくりと食事を楽しむことができます。特に、寒い季節には料理の温かさを保ってくれる漆器は重宝します。
- 抗菌効果で衛生的
漆には天然の抗菌作用があります。そのため、越前漆器は常に清潔な状態を保ちやすく、安心して使うことができます。小さなお子さんやご高齢の方にも、安心して使っていただけます。
- 手に馴染む心地よさ
漆器の表面は、独特の滑らかな質感を持っています。手に取ると、その心地よさにきっと驚くはずです。毎日使う食器だからこそ、手触りの良さは重要なポイントです。
- 日々の食卓に溶け込むデザイン
越前漆器は、落ち着いた光沢と上品な塗りが特徴です。派手すぎず、控えめな印象でありながら、食卓に上質な雰囲気を添えてくれます。和食だけでなく、洋食や中華など、どんな料理にも合わせやすいのが魅力です。
- 食器洗浄機対応で手入れも簡単
「漆器は手入れが大変」というイメージをお持ちの方もいるかもしれません。しかし、最近では食器洗浄機に対応した製品も増えています。忙しい現代人にとって、手入れの簡単さは大きなメリットです。
越前漆器を長く使うために
越前漆器は、適切なお手入れをすることで長く美しい状態を保つことができます。以下の点に注意して、大切にお使いください。
越前漆器の美しさ

越前漆器は美しい光沢と、息をのむほどに繊細な装飾は、人々の心を魅了し続けています。
越前漆器の美しさの秘密
- 深みのある光沢
越前漆器の最大の特徴は、その深みのある光沢です。漆を何度も塗り重ね、丁寧に磨き上げることで、まるで宝石のような輝きが生まれます。光の角度によって表情を変える、奥深い美しさに魅了されることでしょう。
- 息をのむ装飾技法
越前漆器には、「蒔絵」や「沈金」といった伝統的な装飾技法が用いられています。
- 蒔絵: 漆で描いた絵柄に金粉を蒔きつける技法。豪華で華やかな印象を与えます。
- 沈金: ノミで表面を削り、溝に漆と金粉を埋め込む技法。繊細で立体感のある表現が可能です。
これらの技法を駆使し、職人の手によって一つ一つ丁寧に装飾された越前漆器は、まさに芸術品と呼ぶにふさわしい美しさです。
- 素材へのこだわり
越前漆器には、主にケヤキやサクラなどの堅い木材が使用されます。これらの木材は、耐久性に優れているだけでなく、美しい木目を持つことも特徴です。また、漆も天然のものを使用し、その独特の光沢を引き出しています。
- 伝統と革新のデザイン
越前漆器のデザインは、伝統的なものから現代的なものまで多岐にわたります。花鳥風月をモチーフにした古典的な絵柄や、シンプルでモダンなデザインなど、様々なスタイルが存在します。伝統を守りながらも、現代のライフスタイルに合わせた新しいデザインを生み出すことで、幅広い世代に支持されています。
- 使うほどに増す味わい
越前漆器は、使い込むほどに味わいが増すのが魅力です。漆の光沢は深みを増し、木材の質感も変化していきます。年月を重ねるごとに、より愛着の湧く道具となっていくでしょう。

輪島塗は有名だけど越前漆器と何が違うの?
越前漆器と輪島塗の違いを徹底比較
日本の伝統工芸品として名高い漆器の中でも、越前漆器(福井県)と輪島塗(石川県)は特に有名です。
それぞれの特徴や技法、生産規模、歴史を比較しながら、その魅力に迫ります。
産地の違い
- 越前漆器:福井県越前市周辺で生産。
- 輪島塗:石川県輪島市で生産。
どちらも北陸地方に位置し、長い歴史を持つ漆器産地ですが、地域ごとの独自技法が発展してきました。
特徴と技法の違い
越前漆器の特徴

✅ 耐久性と美しさの両立
✅ 「花塗り」技法(はけの跡や埃を残さず仕上げる)
✅ 蒔絵や沈金による華やかなデザイン
輪島塗の特徴

✅ 堅牢な「本堅地の技法」
✅ 「地の粉」(珪藻土の焼成粉末)を漆に混ぜた強靭な下地
✅ 金や銀を用いた蒔絵・沈金による優美な装飾
両者ともに高い技術を誇りますが、越前漆器は実用性とデザイン性のバランスが取れ、輪島塗は特に堅牢さと芸術性が際立ちます。
生産規模と用途の違い
- 越前漆器:
- 日本一の生産量を誇る。
- 料亭や旅館向けの業務用漆器が多い。
- 手に入れやすい価格帯のものも豊富。
- 輪島塗:
- 100以上の工程を経て作られる高級漆器。
- 美術品や贈答品としての価値が高い。
- 職人による手作業が多く、価格は高め。
普段使いの漆器として選ぶなら越前漆器、格式高い贈り物やコレクションなら輪島塗が適しています。
歴史の違い
- 越前漆器:
- 起源は約1500年前(飛鳥時代)とされる。
- 輪島塗:
- 室町時代〜戦国時代に起源を持つが、現在の技法は江戸時代前期に確立。
歴史の長さでは越前漆器の方が古く、日本の漆器文化の発展に大きく貢献してきました。
越前漆器と輪島塗のどちらを選ぶべき?
✅ 越前漆器が向いている人
- 実用的な漆器を探している。
- 価格が比較的手ごろなものを求めている。
- 伝統的な技法とモダンデザインの両方を楽しみたい。
✅ 輪島塗が向いている人
- 高級感あふれる漆器が欲しい。
- 美術品や贈答品として価値のあるものを選びたい。
- 手作業の職人技を重視する。
越前漆器と輪島塗違いのまとめ
越前漆器と輪島塗は、それぞれ異なる魅力を持つ日本の伝統漆器です。
🔹 越前漆器は「実用性・生産量・手ごろな価格」
🔹 輪島塗は「堅牢さ・芸術性・高級感」
用途に応じて最適な漆器を選び、日本の伝統工芸の美しさを日常に取り入れてみてはいかがでしょうか?
越前漆器の魅力と未来への展望
越前漆器は、約1500年の歴史を持つ福井の伝統工芸品です。漆かき職人の技術や、長い歴史に裏打ちされた漆器の美しさは、現代でも多くの人々に愛されています。
さらに、鯖江のメガネの技術と融合することで、新たな価値を持った製品が生まれ、伝統工芸の未来を切り開いています。私たちは、「福井7人の工芸サムライ」として、伝統工芸を守りつつ、新しい挑戦を続けていきます。
今後も、越前漆器をはじめとする福井の伝統工芸品に注目し、皆様のご支援をよろしくお願いいたします。
【関連リンク】
・福井7人の工芸サムライ公式サイト
【ハッシュタグ】
#越前漆器 #福井伝統工芸 #鯖江 #福井7人の工芸サムライ #伝統工芸 #若狭メノウ細工
そこで私は鯖江のものづくりの経験を活かし福井7つの国指定伝統工芸品の若手職人グループ「福井7人に工芸サムライ」を立ち上げました。
福井の伝統工芸の一つ「若狭メノウ細工」も合わせて読みたい
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